10年、と一口に言っても、被災された人々それぞれの10年は想像を超えた多様で多彩な日々であったことと思います。2月13日夜に発生した福島県沖地震で、恐らく福島県周辺の方々は一気に10年前にフラッシュバックしたことでしょう。私は、自分でも予想出来なかった程に慌ててしまいました。地震がこわい、というよりもあの10年前の日々がまた始まるのかとの絶望感を一瞬にして想像してしまい、思わず叫んでしまいました。コロナウィルス感染症への対応、それに伴う医院の経営悪化、医院スタッフのこれから、遊び場の社会的認知向上のための方策など、抱えきれない悩みに翻弄された毎日に重なり、ずっと気持ちの奥底が落ち着かなく、いつもソワソワして動悸が頻繁に襲ってきます。そして、度重なる余震にしょっちゅうビクついている自分があります。
さて、10年前の当時、私は東京から郡山に生活の場を移してわずか11か月目でした。ようやく郡山での生活に慣れ、また自院の診療やこれからの事を考えはじめた頃でした。午後2時46分の大きな揺れによって、私の人生も大きく変わりました。10年後にどうなっているかなどは全く想像もつきませんでした。放射線汚染の恐怖と、相次ぐ大きな余震、そして生活物質の不足で、自分が生き延びることができるのか否かわからない状況で、小児科医として地域の子どもたちに出来ることは何かを必死に考えました。まずは、診療所を再開すること、具合の悪い子どもを何とか救うことを第一に、父と共に地域を復活するための事を模索しました。診療に訪れる子どもの中にはとても過酷な状況にある子もありました。避難で母子手帳を持って来られなかったお母さん、避難先でお母さんがいなくなってしまった子、震災の揺れや風、音がきっかけで風の日に外に出られなくなってしまった子、長引く避難生活で地元に帰れなく頭痛が治らない小学生、入院が必要だけど受入体制がなく東京まで苦労して行った子・・・などなど数限りありません。今頃、みんなどうしているのかなと思います。
3月29日、郡山市と教育委員会、郡山医師会で「郡山市震災後子どものケアプロジェクト」を立上げ、マネージャーとして様々な事業をはじめることになりました。心のケア対策や絵本の読み聞かせ活動の活性化、縁あって東北最大級の「PEP Kids Koriyama」の開設にもこぎ着くことができました。2つのスローガン、『福島の子どもを日本一元気に』と『日本の子どもたちの真の復興は福島から』を掲げ、出来ること、考え得ることを積極的に行ってきたつもりですが、果たして良かったのか悪かったのかわかりません。その間にも、様々な課題が出てきました。頻回の転居が必要であったり、家族が離散したり、県外避難から帰れない、肥満になる、体力・運動能力が低下する、落ち着きがなくなる、甲状腺の心配、等々。全てを解決することはとてもとてもできませんが、少なくとも10年後はある程度落ち着き、そして少しは平穏な日を迎えられるだろうと期待していました。しかし、2019年の台風19号、2020年初頭からまさかの新型コロナウィルス感染症の蔓延など、この10年は本当に激動の時間でした。
多難な状況でしたが、2020年6月に念願であった新診療所を建設し移設オープンしました。医療法人仁寿会 菊池医院は昭和23年に祖母が開業して以来、小児科専門診療所(当時は有床診療所)として地域医療に取り組んできました。創立70周年の記念事業の一環として、地域の子どもの健康や子育ち支援を実践する場造りを考えました。併設される病児病後児保育室やその他の施設も含めて、中心市街地であるここ本町地域の活性化し、地域の人々も健康でいられる拠点となることを目指し日本大学工学部の「ロハスの工学」の考えを取り入れた診療所の建設を計画しました。人の一生の土台を創るのは、人生の最初のわずか数年です。この大事な時期を子どもたちが元気に過ごすための生活環境を地域の大人がしっかりと保証しなくてはなりません。次のような具体的な活動の実践を通して、少しでもこの地が子どもや保護者にとって住みやすく、子どもの居場所として居心地よくしたいと思います。
・子どもたちを元気にする(子育ち支援)☞子どもを直接元気にし、子どもの居場所を整備する
・保護者を元気にする(子育て支援)☞病児病後児保育室の運営、育児支援や子育てに関する相談を行う
・子どもに関わる人を元気にする(地域の子育力Up)☞教育・保育関係者を応援する
・次の世代の子どもに関わる人を育てる(次世代支援者養成)☞看護士、保育士などを養成する
・地域を元気にする☞本町(診療所の所在地)を活性化し、子どもやお年寄りに優しい街のモデルを創る
本来、開業医は自院での診療に最大限の努力を払うべきでしょうが、私はかかりつけにしてくださるお子さんの健康の保持増進だけではなく、地域全体、あるいは福島の子どもを元気にすることを目標としています。そして被災した人、被災地しかしらないこと、ここで知り得た知見を日本や世界に発信することも大切だと思っています。災害は次から次へとやってきます。震災の経験はこのコロナ禍でもとても貴重なヒントを与えてくれています。
最後に、10年間私や当院、そしてPEP Kids Koriyamaを応援してくださり、いつもそばで見守ってくださった全ての方に、改めて心から感謝致します。そして、その想いを無駄にしないようにこれからも更に福島の真の復興、子どもを元気にしていく活動に尽力していく所存です。今後ともよろしくお願い申し上げます。
2020年3月11日
医療法人仁寿会菊池医院 院長
認定NPO法人 郡山ペップ子育てネットワーク 理事長
菊池信太郎